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気体 / 壱タカシ
作詞・作曲:壱タカシ


まどろみの中
シーツを探る
僕の手を引いて

連れ戻してよ
あなたの記憶の世界 森の中

湧き水で休んだ あの場所へ
木漏れ日が注いだ 静かな孤独の場所へ

都会の闇に
置いてきた
かつての夢など

忘れていてよ
あなたの記憶の世界 森の中

止まり木に絡んだ蔦のように
積日の想いが 散らかす部屋を出て

歩きましょう 靄の中
手を繋げば ああミモザの匂い
思い出す
どこに行こう 二人なら
思い描く 世界 広い 空洞
繋がってる

綺麗なものだけをつまみながら
生きるなら同じさ 右手が知る方へ

さあ 歩きましょう 靄の中
手を繋げば ああミモザの匂い
思い出す
どこに行こう 二人なら
思い描く 世界 広い 空洞
どこまでも

楽曲解説

 この曲を作ろうとしていた時は、ちょうど季節が変わっていく最中でした。

 季節が大きく変わる時は景色とか、聞こえてくる音とかが新鮮に感じられます。大人になった今でも、朝の空気を吸って、日が暮れるまで会社にいて、帰ろうとする時にはまるで違う世界に来たような気分にさせられることもあります。

 そんな時、光の色調、音の輪郭、空気の温度に浸っていると、突如自意識にパルスが走ったような感覚を覚えることがあります。
そのトリガーとなるのが、匂いです。なぜか匂いは、穏やかに移り変わる世界から違う場所へ私を連れて行きます。それはいつも突然の出来事。だけど、私はその場所に行くたびに懐かしさに包まれるのです。少しの痛みの後、まるで切り傷から滲み出てくる血のように思い出が溢れてきて、楽しかったことも、悲しかったことも、不思議な暖かさをもって体を満たしていきます。

 もしタイムマシンで過去に行けたとしたらこういう気分なんだろうかと考えていると、いつの間にか現実の時間軸の上に私の意識は戻ってきます。

 鼻はいつだって機能していて、日々いろんな匂いを感じ取っているのに、こういう体験をする時は決まって季節の変わり目だったりします。時間は絶えず進んでいることを五感で感じさせられると同時に、あなたには積み重ねてきた時間があるのだと、神様が思い起こさせてくれているのかもしれません。

 前作「はなむけ」ではピアノ伴奏のみの弾き語りを一発レコーディングする挑戦をしました。録音し、編集し、皆さんに聴いていただくまで様々な工程を経たのですが、普段よりも強く己と向き合う作業が続き、とても神聖な行為でしたが苦しいことがつづきました。だから、今回は好きな楽器をうんと使った、明るい曲を作ろうと決めました。私は匂いのする音、匂いのする楽器が好きです。その匂いを消さないような音像を心がけました。

 今回もたくさんの方にご協力をいただきました。
録音とマスタリングには前作に引き続き、すさきふみおさん。レビューを書いていただいた鷺沼晶良さん。ジャケットアートワークに前作に引き続き写真を提供していただいたTapioさん。そしてギター演奏には、すぬしさんが協力してくれて、今作に新しい「匂い」を加えてくれました。

 私は音楽を使ってタイムマシンを作ろうとしているのかもしれません。なにかの匂いによって突如私が過去へと連れていかれるようなあの感覚を、いつでも味わえるようなものを作りたいのかもしれません。私の音楽が、あなたの素敵な思い出に結びつき、タイムマシンのように機能してくれることを願ってやみません。
壱タカシ

REVIEWS

鷺沼晶良による
楽曲レビューはこちら

記憶の森で戯れる-壱タカシ「気体」に寄せて
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