ICHI TAKASHI OFFICIAL WEB SITE

REVIEWS

鷺沼晶良による
楽曲レビュー

 イメージの落差からのギャップ萌えというものがあるが、落差のベクトルが明後日方向だと狐につままれるということもある。
壱タカシ氏はラッパーだとずっと思い込んでいたので、ある日突然シンガーソングライターです、と発表されて、私は面喰らった。
HPのアー写なども、なんだか見慣れない人のように思えた。

 さて、この「気体」という楽曲はとても面白い。
一聴したところ、70年代のソウルをブルー・アイド・ソウル的に、今様に再構築したようなとても凝った音楽だ(とくにコーラスと、一字一音だけ転調するところがたまらない)、みたいな感想なのだが、よく聴き込むと、歌詞の展開とメロディ、アレンジが細かく呼応しており、角を曲がると別の景色が現れるかのように展開しつつ、気づくと元の場所に戻ってきているようで、歌詞がさながら地図のようでもある。 「森」という言葉が出てくるが、最初は聴きながら森に迷い込んだようでいて、何度か繰り返すうちに、目立たないようによく整備された庭園にいたことに気づくような。 4分間の聴くオリエンテーションのようですらある。

 夢うつつの中、聴き手の手を引いて記憶の森に誘い出すのは、別に他人(人ですらない?)とは限らない。
歌詞をよく読んでも、句読点や行替えでどうとでも解釈できる。
なんだか壱タカシという人が、庭園のミニチュアを上からのぞき込んでいる狐のように思えてきた。
狐のお面の下は、ほくそ笑んでいるのか、本気なのかは、私にはまだ見えない。
今後いろいろな形で化かしてくれるのを、期待している。
鷺沼晶良


歌詞&本人による解説を見る > < TOPへもどる